2018年3月5日月曜日

【Mobile World Congress 2018】 日本発のスマホOS、点字出力のブックリーダー~スタートアップ製品が並ぶ「4YFN」


4YFN会場。昼ごろだと人も多いが、朝イチに来ると人が少ない、というかブースに人がいないこともある

 MWCの開催期間中、別の会場ではスタートアップ専門の展示イベント「4YFN」が開催されている。4YFNは「4 Years From Now」の略だ。6年前までMWCが会場として使っていたFira Barcelona Montjuicの一部ホールを会場としていて、スタートアップ専門としては比較的規模の大きい展示会となっている。

 MWCはモバイル通信関連の展示に特化しているが、4YFNはモバイル以外の展示も行われている。各スタートアップ企業によるハードウェアやアプリ、サービスなどが多数展示されていて、さらにスタートアップを支援する企業やプログラムの展示も多い。また、今年は4YFNでは初となる日本パビリオンも設置され、数は少ないながらも日本のスタートアップも出展している。

段ボール製のブース。ちなみにエアバスはスタートアップ支援側で、ステージセッションを主催したりしている。同様にネスレなどもスタートアップ支援をしている

 4YFNの展示会場自体はホール2つ分くらいとあまり大きくないが、スタートアップ各企業のブースは机1個分程度とかなり小さく、展示数はそれなりの数になっている。また、一部の大型パビリオン以外の各スタートアップの展示は、机や骨組み天井などがすべて段ボール製で統一、つまり主催者側が提供するようになっていて、規模の小さなスタートアップでも出展しやすいという、スタートアップ展示会によくある形式となっている。

とある無人ブースの書き置き。意訳すれば「ミーティング中で不在だけど、14時には多分戻ってくるよ! でもお金をみっけたら戻ってこないかも!」といったところか。かなり緩い雰囲気だ

 毎年ラスベガスで開催されているCES内のスタートアップ展示会場「Eureka Park」に比べると、4YFNの出展者は多くない。CESのEureka Parkは出展者も来場者も密度が異常に高く、異様な熱気に包まれているが、4YFNはそれに比べると落ち着いていて、雰囲気もどこかノンビリしている。MWCは会期が4日間だが、4YFNは3日間のみで、しかも朝の開場直後は誰もいないブースも多く、展示時間中でもランチや商談のためにブースが無人というのもよく見られた。

 また、不思議とEureka Parkと4YFNの両方に出展している企業は少なく、4YFNでしか見られない展示が多かった。ここでは4YFN初となる日本パビリオンや目に付いた特徴的なハードウェアなどを中心に、4YFNのスタートアップ展示をレポートする。

実は民間主導、4YFN初の日本パビリオン「JAPAN Rising Startups」

日本パビリオン。日本人来場者も多く訪れるが、日本人以外の来場者もけっこう来ていた

 今回の4YFNでは、初の日本パビリオン「JAPAN Rising Startups」が出展している。4YFNでは小規模ブースが8つほどで「島」を形成していて、島ごとにどこかの行政やスタートアップ支援プログラムが借り切っているパターンが多いが、「JAPAN Rising Startups」も1つの島を使ってパビリオンとしている。

 日本はスタートアップ自体が盛んではなく、国内市場だけでもビジネスとしてそこそこ成り立つため海外進出も盛んではなく、海外展示会では日本のスタートアップ展示はかなり少ない。しかしその珍しさもあってか、今回の4YFNの日本パビリオンも来場者の注目を集めていた。

 日本がこの手のパビリオンを海外に展示するときは、JETRO(日本貿易振興機構)が主催することが多く、かつてはMWC本会場側でもJETROによる日本パビリオンが出展していた。しかし最近、JETROは日本パビリオンにやや消極的で、海外進出を積極的に目指す中小日本企業が多くないという背景もあり、今年のMWCには日本パビリオンは存在しない。

 そこで今回は、以前から4YFNに出展している日本のスタートアップ、アクアビットスパイラルズが旗振り役となり、スタートアップ数社を集めてJAPAN Rising Startupsとして出展したという。以前から4YFNに出展しているア同社のコネクションもあり、民間主導ながら4YFNには日本のパビリオンとして認められ、バルセロナ行政の協力も得られているという。

 なお、JETROは欧州方面のスタートアップイベントへの出展支援を今年以降に行うようで、5月にフランスで開催される「VIVA TECHNOLOGY」と来年の4YFNについて、日本パビリオンを設置し、研修や相談、商談機会のマッチングなどを行うという。

アクアビットスパイラルズのNFCタグ。要するにURLリンクだが、同社が中継サーバーを持つことでいろいろな機能を持たせている

 アクアビットスパイラルズはNFCとQRコードを組み合わせたラベルを使ったソリューションを紹介している。これはたとえばタクシーを呼ぶNFC/QRコードをスマートフォンで読むと、同社の転送サーバーを介してタクシーを呼ぶWebサービスに接続する、といった使い方が可能なもの。NFC/QRコードにはURLが記載されているだけだが、同社がユニークなURLを発行することが可能で、たとえばタクシー呼び場ごとに別のURLを用意し、タッチするだけで位置を指定しないでもタクシーを呼ぶ、といったことが可能になる。

SUNBLAZE OS。日本で一般コンシューマー向けに登場するかというと微妙な立ち位置

 SUNBLAZE OSは、日本のスタートアップ、アメグミが手がける独自のスマートフォン向けOSだ。Android 8.1をベースに作られ、1台の端末が長く使えるように、余計な機能を削りつつ、新ハードウェアが必要となるような機能も取り入れず、スマートフォンを買い換えなくともアップデートによるメンテナンスで継続利用できることを想定している。

 かなり小規模な体制で開発されているというSUNBLAZE OS。OS単体で販売するのではなく、SUNBLAZE OS搭載のスマートフォンを中国で受託生産し、スマートフォンの形で販売することを予定している。

 例えばアフリカや南アジアの農家だと、スマートフォンを定期的に買い換えてセキュアな環境を維持するのが難しく、スマートフォンが必要な情報収集やECサービスなどの各種ツールが利用できない。SUNBLAZE OSはそういった環境でもリーズナブルにスマートフォンを使ってもらうべく、1台で長く使えるというところを目指しているという。海外展開をメインに考えていて、すでに海外の農薬メーカーなどから引き合いがあるという。なお、現在、販売代理店を募集中とのこと。

MAMORIOシリーズ。組み込み向けのパックタイプやシールタイプなども展示されていた

 落とし物防止タグ「MAMORIO」も展示されている。これはBluetoothタグで、スマートフォンとの接続が切れると通知したり、最後に通信した位置情報をスマートフォンが記録したり、ほかにMAMORIOアプリをインストールしているユーザーとMAMORIOの位置情報を共有したりできる。バッテリー交換できず、1年くらいで買い換えるタイプで、旧モデルは1750円、やや薄型化した新モデルが3980円で販売されていて、買い換え時は使い終わった製品を送付すると割引価格で購入できる。

 同様のタグは多数市場に存在するが、MAMORIOは日本発というだけあって、日本の鉄道会社の遺失物管理センターにBluetooth信号を受信して位置情報を通知する「MAMORIO Spot」を設置するなど、日本ローカルならではのインフラ展開をしているのが特長となっている。今回のイベントでのMAMORIOの展示は、単純にハードウェアとして販売するというよりも、紛失したものが高確率で戻ってくるという日本の文化ごと輸出したい、という意図があるのだという。

 ヒアラブルデバイスを手がけるNain(ネイン)は、新モデル「NA2」を展示していた。こちらは音声アシスタント的な利用にフォーカスをあてたBluetoothヘッドセットで、Androidスマホの専用アプリと連携することで、通知の読み上げなどの機能が利用できる。iOSでは機能が制限される。同社は音声アシスタントのアプリやソフトウェアの開発を手がけていて、オンキョー&パイオニアなどと共同開発も行っている。ブースではそうした他メーカー向けソリューションも展示されていた。

BOXのプロトタイプ。実際にはもっと小型化されて商品化される見込み

 スペインのTech4Freedomは開発中の視覚障害者向けのデバイス「BOX」などを展示していた。こちらはさまざまなセンサーを搭載し、スマートフォン経由でユーザーに伝えるというデバイス。仕様を公開していて、サードパーティがセンサーなどを作れるようなオープンプラットフォームを目指している。

 同じくスペインのBraiBookは、視覚障害者向けのブックリーダーを展示している。オーディオブックだけでなく、点字で出力できるのも特徴。同社のWebサイトで販売中。ただし基本的にスペイン語版となる。

「Mouse4all」。右下の赤いのがスイッチで、それを押すだけでAndroidタブレットを操作する。カーソルがゆっくり動いていて、タイミングを見計らって押していくタイプ

 Mouse4allはALS(筋萎縮性側索硬化症)など、身体を動かせなくなる疾患の人が使うためのマウスデバイスだ。こちらもスペインの企業が手がけている。Androidタブレット用デバイスで、ボタン1個でマウスカーソルの上下左右移動やクリック、バック、ホームなどの操作ができる。たとえば首が動かせるのであれば、アゴの部分にスイッチを装着し、首を動かして操作する。専用アプリを入れれば一般的なのAndroidタブレットで利用できるのが特徴。こちらは159ユーロで販売中。

 4YFNとMWCの両方ともに、スペインやカタルーニャ、つまり地元企業の出展が多く、MWCではスペインとカタルーニャともにパビリオンが多数存在している。とくにカタルーニャ州政府はMWCと4YFNの誘致をするなど、モバイル産業やスタートアップ企業の支援に積極的だという。また、毎年MWCにはスペイン国王が訪問するなど、スペイン全体でも支援に力を入れているようだ。

 Reflexbox 2.0はイタリアのメーカーが手がける、画面投影機能を持ったワイヤレスチャージャーだ。GalaxyやiPhoneといったワイヤレスチャージに対応するスマートフォンを置き、専用アプリを起動しておくと、上部のミラーに時計や天気予報などがやや拡大して表示される。枕元の目覚まし時計的な置き方を想定していて、置いてある机を叩いたりすることで画面を遷移させる、といった機能も持っている。

肉に刺さっている金属棒がMEATER。見ての通りオーブン内で使える

 MEATERはスマートフォンと通信できる、肉料理専用の温度計だ。これを肉の塊に挿したまま、オーブンなどで調理することを想定している。スマートフォンと連動することでリアルタイムの温度を測定し、火から下ろす最適なタイミングを通知させることができる。イギリスに本部を置くスタートアップによる製品で、1本69ドルなどで販売されている。

MailTime。相手ごとにスレッド画面でメールが表示される。一部機能が有料販売

 4YFNではアプリも展示されている。例えばMailTimeは、メッセージ風の画面でメールをやり取りできるメーラーアプリだ。iOSとAndroidで配信中で、日本語にも対応し、日本のアプリストアでもダウンロードできる。

 4YFNだけでなく、MWC会場にも、スタートアップ企業は多数出展していた。昨年は4YFNに展示していたが、製品化が順調なので今年はMWCに、というパターンも少なくないし、国別パビリオンによってはスタートアップばかりなこともある。とくに韓国はハードウェアスタートアップが多いこともあり、韓国パビリオンでは多数のユニークなハードウェアを見かけた。

 GperはLoRaネットワークを使うGPSトラッカーだ。ピザの配達員が使うといったビジネス用途に加え、子どもやシニアの安全などの用途が想定されている。B2B色の強い製品だが、用途によってはB2Cでの利用も想定している。日本進出も準備していて、日本の技適の認証も取得している。

VHOOP。この来場者のお姉さんはすごく上手で、余裕で規定回数をクリアしていた

 VHOOPは回した回数などを測定できるIoTフラフープだ。Kickstarter発の商品で、現在はIndiegogoで販売されている。手軽に有酸素運動をしようという製品だが、イイ年こいた大人にしてみるとフラフープを満足に回すのも困難なもので、会場では「×回でプレゼント進呈」のようなイベント形式でデモが行われていたが、上手く回せない人が多数だった。

 MR.TIMEはスマートウォッチの文字盤をカスタマイズするアプリだ。Android Wear、Apple Watch、サムスンのGear S3(Tizen)に対応している。基本的な機能は無料だが、特別な文字盤がダウンロードできるような交換バンドを同社が販売するというビジネスモデルを採っている。既存ブランドとのコラボ商品も用意されている。ただしApple Watchはアプリから文字盤をカスタマイズする機能がないため、壁紙デザインの変更となる。



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