2018年2月27日火曜日

[ITmedia マーケティング] CRMの重要性を理解しない広告マンと組んでも売り上げは上がらない ――加藤公一レオ氏

 デジタルマーケティング業界のトップランナーに、現在それぞれの専門分野が抱える課題と今後の展望を語り下ろしてもらうこの連載。第3回はEC業界を取り巻く環境の変化とマーケティングの在り方について、通販一筋20年のスペシャリストであり、ネット広告業界の論客として知られる、売れるネット広告社 代表取締役社長の加藤公一レオ氏が語る。

加藤公一レオ氏 加藤公一レオ氏

単品通販に本格進出する大企業の課題

 九州は“通販王国”といわれています。「やずや」「キューサイ」「再春館製薬所」といった有名な通販会社が九州から数多く生まれていて、単品通販に非常に強いのです。私自身はネット広告マンとして、2003年に初めて九州へ進出しました。

 しかし、ここ数年強く感じるのは、「東京に押されている」ということです。理由は明白で、東京に本社を構える大手メーカー系企業が、新しいビジネスとして続々と単品通販事業へ乗り出してきたからです。単品通販を扱う東京の大手メーカー系企業が九州の広告マンに仕事を依頼することも増えていて、九州のノウハウが人と共に東京へ逆輸入されているのです。

 東京と九州では、われわれのクライアントを見ても、全く傾向が異なります。九州のクライアントは主にオーナー経営の企業なので、社長の意思決定1つで物事が一気に進みます。それに対して東京の大手メーカー系企業は、大きな組織の一部・事業の一環として通販をやっている場合が多いので、意思決定のスピードが遅くなりがちです。

 大手メーカー系企業の多くは、リアル店舗に商品を置いておきさえすればすぐに売り上げが立つのが当たり前の世界でビジネスをやってきました。そうした彼らが、ネット広告を活用した単品通販を理解するのは難しい。なぜなら単品通販とは、初回受注をきっかけとして、その後の引き上げ、リピート、クロスセルで中長期的に利益を出すビジネスモデルだからです。

 もちろん、うまくいっている大手メーカー系企業もあります。その代表例がサントリーです。サントリーが単品通販で成功しているのは、過去ビール事業が46年目にして初の営業黒字に転じたという経験があるからです。中長期ビジネスモデルの成功体験があるからこそ、最初はほとんど利益の出ないところから始まって、徐々に黒字化するまで根気強く続けてこられたのです。

 しかし、大手メーカー系企業のトップのほとんどはこの中長期ビジネスモデルへの理解がなく、通販担当部門が困っているケースが実に多く見られます。こうした背景があるからこそ、われわれは現在、大手メーカー系企業のトップ向けに無料セミナーを開催して、“最強の売れるノウハウ”を世の中に発信しているのです(ご興味のある方はこの記事の2ページ目のプロフィールにあるリンクを参照してください)。

「マーケティング=広告」ではない

 ネット広告の領域においてはこれまで、CPA(顧客獲得単価)至上主義の時代が続いてきました。運用型広告はリアルタイムビッディング(ネット上でのリアルタイム入札)だけで勝ち負けが決まる、平等主義の世界です。大手企業も中小企業も関係ありません。しかし、これは裏を返せば、露出するためには入札単価を上げるしかないことを意味します。

 競合の増加に加え、消費者が広告を見慣れてきたこともあって、CPAは10年前と比べるとかなり高騰しています。かつては広告費1000万円を投資したら初回の売り上げで1500万円回収できていたということもざらにありましたが、今となっては初回の売り上げだけでは300万〜400万円しか回収できないような時代になっています。

 入札単価を上げても利益が出るようにするためにはLTV(顧客生涯価値)を最大化させる必要があります。何度でも繰り返しますが、ネット通販の中長期ビジネスモデルは、決して新規獲得のみではなく、リピート、引き上げ、クロスセルをしてくれることが重要です。マーケティングは広告と同義ではありません。CTR(クリック率)やCVR(コンバージョン率)、CPAといった新規獲得の数字のみに一喜一憂していてはダメなのです。LTVを最大化するためにはマーケティングをCRM(顧客関係管理)だと捉える必要があります。

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