その大学の中を案内してもらうと、ハリー・ポッターのホグワーツ魔法学校に迷い込んだような気分になる。ただ、その大学に組み込まれているのは魔法ではなく、「十分に発達した科学技術」、大量のIoTデバイスだ。率いるのはダンブルドア校長ではなく、「IoTの父」坂村健氏。
TRONプロジェクトのリーダーである坂村健氏は、東京大学名誉教授であるとともに、2017年4月に開設された東洋大学情報連携学部、通称「INIAD」(イニアド)の学部長も務めている。
INIADとは、「Information Networking for Innovation and Design」の略称で、東京都北区赤羽台にキャンパスを構える。建築設備や内装、建築の総合プロデュースを坂村氏自身が手掛け、世界的な建築家である隈研吾氏が建築設計に関わるなど、一見すると大学とは思えないようなキャンパスだ。
坂村氏が1989年に始めた、1000個以上のチップやセンサーを住宅環境に組み込む「TRON電脳住宅」が今のスマートホームの先駆けとなったように、INIADは最先端の「IoTスマートビル」と言っていい。そんなキャンパス内を坂村氏自身に案内してもらいながら、INIADが目指す教育についてお話を伺った。
世界一のオープンAPIコントロールビルが校舎に
INIADのメイン校舎となる「INIAD HUB-1」は、総床面積1万9000平方メートルの建物内にIoTデバイス5000個を備える一大施設だ。このビルは「世界一のオープンAPIコントロールビル」とも言われており、設備機器や環境制御機器等を全てIPv6ネットワークにつなぎ、ネットワーク経由での情報読み取りや制御指示が可能になっている。
天井はケーブルなどがむき出しの状態。これはカメラやセンサー、アクチュエーターなどを設置しやすくするためで、学生たちが常に新たな挑戦をできるよう坂村氏が配慮したそうだ。
SuicaやPASMOといった交通系ICカードを、入退室やロッカーの開閉時の個人認証に利用しているというのも面白い。建物内には複数のデジタルサイネージがあり、脇に設置されたカードリーダーにカードをかざすと、自分の時間割を表示することもできる。
最近ではマンションのカードキーとしても交通系ICカードが導入されているが、大学内で活用されるのは珍しい。交通系ICカードにはユニークな個体識別番号があり、ローコストに利用できるのがメリットだという。
生徒のなかには、このICカードを使ったプログラミングを行い、音声によるロッカーの開閉操作や、任意で設定した生徒だけがロッカーを開けて荷物を受け渡せるといった、一歩進んだ活用法を考えている
また、筆者が一番驚いたのは、ARを活用した案内システムだ。校内の案内図にはARマーカーが組み込まれており、スマートフォンやタブレットをかざすと、現在地や目的地までのルートを案内してくれる。さらに、移動を開始すると、天井に設置されたプロジェクターが目的地までの道案内を壁と床に投射し、目的地のドアの前には赤いピンが表示されるようになっていた。
もちろん、技術としてこうしたことが可能なのは理解しているのだが、実際に体験すると、「魔法みたい!」と思わずにはいられなかった。INIAD HUB-1はただの大学の校舎ではなく、最先端のIoT教材として機能しているのだ。
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