漫画やアニメなどの海賊版を掲載するサイトの急速な拡大を受け、政府は「漫画村」「AniTube」「MioMio」などの海賊版サイトのブロッキングをISP(インターネットサービスプロバイダー)に要請することを検討している。
あくまでも「法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置」「民間事業者による自主的な取り組み」とはしているものの、著作権侵害の対応策としてのブロッキングは賛否が大きく分かれているのが現状だ。それぞれの立場と意見をまとめた。
賛成する出版社、背中を押すメディアドゥ
政府の方針にいち早く賛成を示したのは大手出版社だ。講談社、集英社、KADOKAWAは4月13日に緊急声明を発表。「この状態が続けば、コンテンツ産業は立ち行かなくなる」(講談社)、「ギリギリの状況で、今回の対策が示されたのは大きな前進」(集英社)、「コンテンツ業界が長年苦しめられてきた海賊版被害の食い止めに大きく寄与し、海賊版問題の抜本的な解決に向けた大きな一歩」(KADOKAWA)――と、被害を訴えるとともに政府の方針を支持している。
日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本電子書籍出版社協会、日本出版インフラセンターの4団体から設立された団体「出版広報センター」も声明を発表。「長年海賊版サイトに対してできうる限りの対策を施してきたが、個社による対応では限界があった」「今回の決定がリーチサイトの違法化やサイトブロッキングを含めた具体的かつ実効性のある法整備につながることを強く希望する」とした。小学館は自社では声明を出していないが、同団体の声明をWebサイトのトップに掲出している。
こうした出版社の訴えの背中を押すのが電子出版取り次ぎ大手のメディアドゥだ。同社は13日、「海賊版サイトの影響」に関するレポートを発表。海賊版サイトの利用者数が増加した2017年9月以降に若年層向けの電子書店の売り上げ伸び率が急激に低下していることや、大手漫画出版社の電子書店での売り上げが昨対比で低迷していることを明かした。
被害の大きさを示すことで、「緊急的な措置」が必要であることをアピールしたといっていいだろう。調査では若年層向けのマンガで特に影響が大きいことが示されている。緊急声明を出した3社は若年層に向けたマンガ作品に強い出版社であるため、より深刻な被害につながっているのかもしれない。出版社も一枚岩ではなく、ブロッキングに強く反対している老舗出版社もあるという。
反対するISP
反対意見も相次いで出ている。日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)は、政府によるISPへのブロッキング要請検討の報道を受け、12日に反対を表明。「ブロッキングは通信の秘密の侵害にあたる行為」「既にISP事業者が自主的な取り組みとして実施している児童ポルノブロッキングは、慎重な議論を重ねてのもの」「今回の要請に法的根拠はなく、ブロッキング以外の議論を十分尽くしたとはいえない」――と強く非難している。
同様に情報法制研究所(JILIS)、インターネットコンテンツセーフティ協会、インターネットユーザー協会と主婦連合会(共同声明)なども反対を提言。法曹関係者もTwitterやWebサイトなどで反対意見を表明している。
反対意見に共通するのは、「ブロッキングは通信の秘密の侵害にあたり、検閲にもつながりうる」という点。政府からの要請により、議論を重ねずにブロッキングを行った前例ができてしまえば、他のサイトに関しても適用される可能性がある……という危惧も大きい。
「被害は深刻であり一刻の猶予もない。緊急対策が必要」と主張する出版業界と、「通信の秘密を侵害しうる対応策を実行するには、まだ十分な議論が足りていない」と主張する通信・プロバイダー業界。両者の意見が大きくぶつかっている。
一般ユーザーの意見は
一般ユーザーの意見はどうだろうか。ドワンゴは16日、「漫画村などの海賊版サイト対策に関するアンケート」の結果を発表。動画サービス「niconico」のアンケート機能を使って13日に実施し、ユーザー8万9154人から回答を得た。
ブロッキングに過半数の52.7%が「賛成」と答えたものの、「分からない」が28.2%、「反対」が19.0%と賛否が分かれる結果となった。年齢別では、10代の賛成率が他の年代よりも10ポイントほど低くなった。
政府の方針に対しては、賛成が47.8%、反対が18.2%、分からないが34.0%。ISPがブロッキングに協力すべきかについては、「協力すべき」が55.0%、「協力する必要はない」が15.3%、「分からない」が29.7%だった。いずれの項目についても、賛成が半数ほどに上るものの、「分からない」と態度を保留する層が3割ほどとなっている。
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