ニュースや量販店などで、「Google Home」や「Amazon Echo」といったスマートスピーカーを目にする機会が増えてきた。しかし、これらを購入しているのは、いわゆるガジェット好きや新しいもの好きな男性たちが中心で、まだ一般層には広がっていないのが実情だろう。
というのも、その日のニュースを読み上げる、天気予報を教えてくれるといった実用的な機能は、「スマートフォンでいいじゃん」と言われてしまえばそれまでだったりするからだ。LED電球やテレビなど、スマートスピーカーと連携する製品はあるが、まだ家の中のあらゆる家電と連携する「スマートホーム」の世界が実現しているとは言いがたい。
そんな実用性とは対極にありつつも、子どもから大人まで幅広い層で人気を博しているのがポケモン社が配信(カヤックが開発協力)しているスマートスピーカー用アプリケーションの「ピカチュウトーク」だ。「ポケットモンスター」で人気の「ピカチュウ」と会話できる、というだけのシンプルな機能だが、アマゾンジャパンが公開した人気スキルランキングでは、2018年1月と2月で2位を獲得している。
実際、スマートスピーカーを買おうか悩んでいた友人に「目覚ましや天気予報に使えるよ」と言っても全く響かなかったが、「ピカチュウとおしゃべりできるよ」とアピールすると、「何それ、よく分からないけど面白そう」と興味を持ってくれた。
そう、よく分からないけど面白いのだ。「ピカチュウ、今日の天気は?」→「ピカピカ〜」、「ピカチュウ、おはよう」→「ピカチュウ〜」といった具合に、返答は「ピカ」や「チュウ」で構成されたものしかないので利用者の想像力が試される。余計な機能をそぎ落とした非常にシンプルなスキルで、いかにもスマートスピーカー黎明(れいめい)期らしいといえるだろう。
100種以上の豊富な「ピカ」と「チュウ」で返事をしてくれるピカチュウトーク。無機質なスマートスピーカーの中に、まるでピカチュウが存在しているかのように感じさせるためにどのような工夫をしたのだろうか。
100種以上の「ピカ」と「チュウ」を大谷育江さんが演じ分け
ポケモン社の小川慧マネジャーは、「ピカチュウがそこにいると感じられるよう、返答の数と生活感を意識した」と話す。
例えば、「おはよう」という1つの言葉に対して、ピカチュウは「ピカ〜」「ピカピカ」「ピカチュウ〜」など数種のパターンで返答。それぞれイントネーションをつけて感情も表現する。生活感を出すために、時間の概念も取り入れた。夜になるとピカチュウは眠そうになり、いびきをかいたりする。「誕生日」と言うと、ハッピーバースデーの歌を「ピカ」と「チュウ」だけで歌ったり、「10万ボルト」と言うと、「ピーカ、ヂュウーーーーーー!!」と技を出したりと、特殊アクションも用意している。
この表現豊かなピカチュウは全て、テレビアニメ「ポケットモンスター」でピカチュウを演じる大谷育江さんの声を台本に沿って録り下ろしたもの。ポケモンのアニメでオープニング曲の歌詞などを手掛ける戸田昭吾さんがシナリオを作成した。収録現場では、ポケモンのアニメや映画にシリーズ当初から音響監督として参加してきた三間雅文さんが、大谷さんの演技を指導し、2時間ほどかかった収録が終わるころには大谷さんはへとへとになっていたという。
新藤貴行ディレクターはこう振り返る。「戸田さんの作った台本は縦書きで、100種以上あるせりふはもちろん全て『ピカチュウ』でした(笑)。シチュエーション別にこういう感情で、というのが細かく書いてあります」
台本では、100種以上の日本語リストに対し、ピカチュウのレスポンスを用意。実際には、スマートスピーカーは声のトーンや抑揚など音響的特徴を認識していないが、「今後スマートスピーカーの仕様が変更されれば、元気な「おはよう!」と、どんよりした「おはよう……」の違いによって、ピカチュウをより生き生きと反応させることができる」(小川マネジャー)という。
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