待機児童問題がクローズアップされるたびに、保育士の処遇を改善して人材を確保すべきだという議論が盛んになる。せっかく保育所を整備しても、保育士を確保できないために定員通りに子どもを受け入れられないケースが相次いでいるからである。
政府は2017年12月8日、消費増税による増収分の一部を財源として、19年4月から保育士の賃金を1%(月3000円相当)引き上げることを閣議決定した。安倍晋三首相も「他産業との賃金格差を踏まえた処遇改善にさらに取り組む」との姿勢を表明している(※1)。
では、保育士の賃金は他の職種に比べてどれぐらい低く、その背景には何があるのだろうか。
保育士の賃金については、全職種平均に比べて月10万円程度低いという報道が目立つ(※2)。これは、厚生労働省の賃金構造基本統計調査から全職種の平均月給(同調査の「きまって支給する現金給与額」)(※3)と保育士の平均月給(同)を比べたものである。ただし、保育士は全職種に比べて勤続年数が短いなど条件に違いがあり、単純比較は適当ではないと思われる。本稿では、勤続年数などの条件をそろえた場合、保育士と全職種の平均月給の差額は月約8万円であると試算した。
それでも依然差は大きく、保育士確保のためには賃金改善が望まれる。特に、新人時代よりもベテランの方が全職種との賃金差が拡大しており、離職防止のためには、昇給幅を改善することが重要である。また、保育士ニーズは地域によって異なるため、税金を効率的に使うためには、地域差に考慮した配分が求められる。本稿では、このような処遇の現状と背景、今後の処遇改善策について検証したい。
なお、子ども・子育て支援新制度の下で認可保育事業を行う施設には、「保育所」や「認定こども園」、「小規模保育」、「家庭的保育」などがあるが、煩雑さを避けるため、本稿では「保育所等」と呼ぶことにする。また、公立保育所で働く保育士は、地方公務員として各市町村で給料表が定められているため、本稿では検討の対象外とする。
※1 17年12月8日の政府与党政策懇談会での発言。首相官邸ホームページより
※2 17年11月21日 朝日新聞朝刊「保育士、賃金引き上げへ 『無償化より待機児童対策』批判受け」など
※3 基本給、職務手当、通勤手当、家族手当、残業代などが含まれる。手取りではなく、所得税や社会保険料などを控除する前の額
保育士不足の要因
保育士は子どもにも人気の職業だが、なぜ、なり手が少ないのだろうか。厚生労働省によると、保育士の専門学校などを卒業しても保育所で働く人は半数に過ぎず、ようやく就職しても、民間保育所では年間12%が離職するという(※4)。
保育士の資格を持っているのに保育所等で働いていない「潜在保育士」は 2013年時点で約76万人に上る。全国の保育所等で働いている保育士は同年に約43万人であるから、有資格者の約3分の1しか現場で働いていないことになる。保育士不足を解消するには、潜在保育士の力を生かすことがカギとなる。
そこで、厚生労働省職業安定局が13年5月、保育士資格を有するハローワークの求職者958人に保育士として就業を希望しない理由をたずねたところ(複数回答可)、「賃金が希望と合わない」が47.5%でトップだった(図表1)。2番目に多かった「他職種への興味」(43.1%)にも、賃金の低さが関連していると考えられる。
続いて、小さな子どもに関わることから「責任の重さ・事故への不安」(40%)も多く、「自身の健康・体力への不安」(39.1%)も目立った。その他、「休暇が少ない・休暇がとりにくい」(37%)「就業時間が希望と合わない」(26.5%)など、働き方に対する不満も一定の割合に上った。これらの回答の背景には、いずれも人員態勢の問題があると思われる。現場にベテランが少なく、若手に対するサポートが不十分になったり、業務に追われて休暇を取得する余裕がなくなったりしているのではないだろうか。
それでは、保育士として働いている人の動機は何だろうか。
東京都が13年、保育士として登録している約1万5000人に行った調査では、仕事全体のやりがい度をたずねたところ、「大変満足」「満足」「やや満足」との回答が合わせて7割を超えていた(※5)。仕事の内容自体には満足度が高いといえる。
「大変満足」と回答した人の自由記述には「子どもの笑顔に元気をもらえる」「子どもたちの成長を間近で感じることができる」など、乳幼児を育てることに対する喜びがつづられていた。
※4 厚生労働省「保育士等確保対策検討会」(15年11月16日)資料より
※5 東京都保育士実態調査報告書(14年3月)より
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