スマートフォンの世界にはさまざまな“メッセージング”のツールがあり、皆さんも日々活用していることだろう。電子メールやSNSはもちろんのこと、そこから派生したFacebook MessengerやTwitter DM、MicrosoftのSkype、AppleのiMessage、Google Hangouts、LINEをはじめ、さまざまなサービスが利用されている。
海外では、SMSやMMSがいまだ広く利用されている。これらが近い将来、オンラインコマースや決済の中心になるという話を聞いて、その世界が想像できるだろうか? やがてはスマートフォンで花開いた“アプリ”文化も飲み込み、B2Cの世界を大きく変えることになるだろう。このあたりの最新事情を追いかけてみる。
小売業界の注目を集めるメッセージングのインタフェース
メッセージングでは、個人間またはグループ同士でテキストや画像などを使ってやりとりを行う。このやりとりの仕組みをオンラインショッピングに応用したものが現在、各社で盛んに研究されている。
例えば2018年1月に米ニューヨークで開催された小売業界の展示会「NRF Retail's Big Show」では、このメッセージングのインタフェースを使ったサービスがいくつか紹介されており、来場者の注目を浴びていた。その1つであるFindMineのサービスでは、お勧めのコーディネートを紹介し、対話インタフェースを通じて取捨選択や購入などが可能だ。
これはAIを使った一種のレコメンデーション・エンジンだが、FindMine以外にもスマートフォンのカメラ機能を用いたスキンケアのアドバイスサービスで同種の対話インタフェースを用いており、2018年のNRFの展示会におけるトレンドの1つになっている。
リアル店舗の苦境が叫ばれる昨今において、小売各社は生き残りのために顧客との“より密な”接点を模索し続けている。その意味で、顧客ごとのパーソナライゼーションが容易で、かつ個々のニーズを反映させやすいメッセージングのインタフェースは最適なものだと考えられているのだろう。ちなみに同展示会では、AppleでApple Payの責任者であるJeniffer Bailey氏が講演を行い、間もなく提供されるiOSの最新機能についてプレビューしているが、ここで最も力を入れていたのがiMessageを使った「Business Chat」だ。
従来まで、地図やWeb検索で出てきた店舗情報では、連絡手段として「通話ボタン」が表示されるケースが多かったが、今後はこれに「Business Chat」が加わり、メッセージングのインタフェースを使って店舗への問い合わせが可能になる。店舗側がチャットでの応答に対応できる仕組みを別途用意する必要があるが、Bailey氏がこの機能を小売関係者にあらかじめプレビューで先出しした意図は「今後はこれがトレンドになるから、早めに対応してほしい」と訴えることにある。
AppleがアピールするBusiness Chatでは、主にサポートやフィードバックなどが中心で、どちらかといえば電話の自動応答サービスに近いレベルの対応だ。昨今ではさまざまな「チャットbot」が登場し、メッセージングサービスに応用する例が増えている。筆者が体験したものだけでも、LINEで各種キャンペーンやサポートを提供するものの他、Facebook Messengerで当日搭乗する飛行機の運行状況やゲート状況を知らせるサービスがあった。
飛行機では遅延やそれによる乗り継ぎの失敗などはよくあることだが、こちらがトラブルになっている状況を把握するとチャットbotによる自動応答から、人手を使った対話に自動的に切り替わり、代替便の手配なども素早く対応してくれて驚いた記憶がある。一般に、チャットbotを使った応答サービスのメリットは「即時応答性」と「(客観的視点からの)応答の正確さ」にあるといわれる。
相手にストレスを与えることなく素早く的確な情報を提供し、必要に応じて人間に切り替わることできめ細かいサービスを提供するという手順により、顧客満足度をさらに高めることができるというわけだ。
AppleがBusiness Chatを強調する理由
米GoMomentという、メッセージングのインタフェースを使ったホテル向けのコンシェルジュサービスを提供する企業がある。2016年春に代表のRaj Singh氏にインタビューした当時、インタフェースとして採用していたのはSMSのみだった。テキスト中心のやりとりなのでFacebook Messengerなどへの対応も用意だが、「なぜSMSのみの対応なのか」と質問したところ、「電話番号さえ分かれば誰でも利用でき、別途アプリを入れる必要がない。対応を特定のサービスに限定すると、ここが問題になる」と語っていた。日本ではなじみのないSMSだが、海外では広く利用されており、筆者も海外の友人の何人かとはSMSで連絡をよく取り合っている。
モバイル端末、特にスマートフォンが主流となった現在、人々の生活様式は変化し、リアル店舗での買い物やテレビ視聴中でさえ何らかの形でモバイル端末を操作しているという。Deloitteのデータによれば、92%の買い物客がショッピング中にモバイル端末を操作しており、米国人の実に6割が毎日SNSをチェックしているという。この傾向はミレニアル(Millennials)と呼ばれるデジタルネイティブな比較的若い世代ほど顕著で、直接の対人よりもSNSなどを通じたコミュニケーションを好むという。
AppleがBusiness Chatを強調するのも「電話よりSNS」という世代のニーズを受けてのものといえる。重要なのは、ここ10年ほどで人々のコミュニケーションやメディアの接し方が大きく変化しており、モバイル端末に費やす時間が増えているということだ。つまり、マーケティングキャンペーンもこうしたユーザーの動向に合わせないと効果が非常に薄いものとなり、リアル店舗でさえ「モバイルやSNS」を意識した対応がなければ顧客の心をつかめなくなりつつある。
このようにユーザーのモバイル依存度が高まる一方で、モバイル向けにサービスを提供する側には厳しい現実が待っている。多くのユーザーのモバイル滞留時間のほとんどは十数個程度の“お気に入り”アプリとWebブラウザに取られ、残りのアプリはインストールされない、あるいはインストールされても放置されたままの状態となる。
これを小売の世界に当てはめれば、各社が一生懸命頑張って作ったユーザーを店舗やサービスに誘導するアプリのほとんどは利用されず、そのうちのごく一部のみに利用が集中してしまう。接点となるアプリがユーザーに利用されないということはすなわち、そのユーザーから見れば存在しないに等しい。先ほどのSingh氏のSMSにこだわった理由の1つであり、「(当該ホテルが提供する)専用アプリを利用してもらえないホテルの最後の接点としてのSMS」という位置付けだ。
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