ネットワークで接続された「モノ」が、顧客に対する販売とエンゲージのための新たなチャネルとして注目されている。本稿では、2018年2月20日に開催された「ガートナー カスタマー・エクスペリエンス サミット 2018」におけるGartner Research リサーチ ディレクターのサンディ・シェン氏の講演から、モノのコマースという新たな潮流を紹介する。
モノ自体が顧客になる日
Gartnerは「2020年までに200億のモノがインターネットを介してつながっている」と予測している。しかもこの200億には、PCやモバイル端末といったコンピューティングデバイスは含まれない。家電製品や自動車、産業機械や自動販売機などがインターネットにつながり、新たに販売やコミュニケーションのチャネルになるというのだ。
さらに技術が進んで、こうした機械たちがインテリジェンスを持つようになれば、人間に代わって購入の意思決定も行うようになる。つまり、モノ自体が顧客になる日が遠からずやってくるということになる。モノが顧客になれば、マーケティングやセールスのやり方も変わってくる。モノに対してマーケティング施策を展開しつつ、顧客サービスも提供する。モノが満足することが、さらなる購入につながっていく。これは、企業にとっては大きなインパクトとなるだろう。
モノのコマースに必要なテクノロジー
モノのコマースとは何か。シェン氏は「スマートなモノが人間の顧客の代わりに購入を行うサービス。顧客から直接リクエストを受けるか、ルール、コンテクスト、顧客の好みに基づいて需要を推測して最適な意思決定を下す。モノのコマースの主な利点は、購入時の顧客の手間や煩わしさが減ること」と語る。シェン氏によれば、モノのコマースの進化には3つの段階がある。
- 固定的:現在。シーンと製品が1対1でマッチング。在庫の90%がなくなったら自動で補充といった利用イメージ。代表的な例はAmazonダッシュボタン。
- 選択的:2017〜2020年までに実現。限定的ではあるが多数の製品から最適な品を選択する1対少のマッチング。例えば、自動販売機でストックが減った商品を自動で補充する。
- 自律的:2021年以降に実現。1対多のマッチング。ユーザーの好みや行動に合わせてニーズを推測し、機械が自律的に意思決定する。例えば、スマート冷蔵庫。食材の利用状況を冷蔵庫がモニターし、牛乳がなくなりそうなら新しいものをオーダーしたり、広告でお得な商品があればそれをオーダーしたりする。牛肉の賞味期限が迫っていたらそれを使ったレシピを提案し、不足の食材も冷蔵庫が注文する。週末に友人とパーティーの予定があれば、友人のSNSを見に行き、投稿された写真から好みの料理を推測し、必要な食材を購入するというような。今の技術でも賞味期限や在庫状態の確認はできるが、料理の好みを推測するといった機能を実現するためには、より洗練した意思決定のテクノロジーが必要になる。
モノのコマースの進化を支えるテクノロジーは「顧客インタフェース」「意思決定管理」「デジタルコマースアプリケーション」の3つのカテゴリーで進化する。
PCやスマートフォンを接点とした従来のEコマースと異なり、モノのコマースにおいては必ずしもキーボードなどの入力デバイスを持たない。そこで、音声認識を活用した会話型インタフェースが重要になってくる。スマートスピーカーなどはその1つだが、今後はこれに画像や動画なども取り込まれ、よりリッチな顧客体験を提供するものになってくる。また、自然言語処理で顧客の求めているものを理解し、生体認証で安全かつ簡単に認証を行う必要も出てくるだろう。ユーザーを識別して、例えば子どもがゲームをするときには課金の上限を決めるというようなことも求められるかもしれない。機械への燃料補充など、そもそも人間向けのUIを必要としないシーンではセンサー技術の統合が必要になるケースもある。
3つのカテゴリーの中でも特に重要となる意思決定管理について、シェン氏は「ルールエンジンや従来型のアナリティクスと人工知能をうまく組み合わせることで、高精度な需要予測が可能になり、最適なカスタマーエクスペリエンスを提供できる」と述べる。
デジタルコマースアプリケーションについては、注文管理や顧客管理、決済など既存のアセットを活用することが重要だ。
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