2018年3月2日金曜日

顧客中心主義でデジタルトランスフォーメーションを推進

 デジタルトランスフォーメーションの実施にあたっては、企業によって課題も複雑性も異なります。企業のビジネスモデルや体質を改善するといった大きな目標を掲げる場合、お客さまのことをとことん考え、戦略を立て、それを実現するためのデジタルトランスフォーメーションを行うことが必要不可欠です。

 電通デジタルが委託し、Forrester Consultingが実施した調査(電通デジタル委託 Forrester Consulting社 ソートリーダシップ報告書2017年8月「日本におけるデジタルトランスフォーメーションおよびデジタルマーケティングに関する実態調査:2017年度」)によると、日本において、企業全体を見渡した際のデジタルトランスフォーメーションの目的の上位は「ビジネスモデルの変革」「お客様の獲得」「お客様のロイヤリティ向上」となっていますが、企業のデジタルトランスフォーメーション進捗度合い別にみると傾向が異なります。

電通デジタル委託 Forrester Consulting社 ソートリーダシップ報告書2017年8月「日本におけるデジタルトランスフォーメーションおよびデジタルマーケティングに関する実態調査:2017年度」

電通デジタル委託 Forrester Consulting社 ソートリーダシップ報告書2017年8月「日本におけるデジタルトランスフォーメーションおよびデジタルマーケティングに関する実態調査:2017年度」

 デジタルトランスフォーメーションを完了している企業の目的の上位は「既存ITの向上」「レベニューアップ」「CX向上」となっていますが、デジタルトランスフォーメーションの必要性を認識しているもののまだ実施途中、という企業では「ビジネスモデルの変革」「CX向上」「企業のアジャイル化」となっています。

電通デジタル委託 Forrester Consulting社 ソートリーダシップ報告書2017年8月「日本におけるデジタルトランスフォーメーションおよびデジタルマーケティングに関する実態調査:2017年度」

電通デジタル委託 Forrester Consulting社 ソートリーダシップ報告書2017年8月「日本におけるデジタルトランスフォーメーションおよびデジタルマーケティングに関する実態調査:2017年度」

 デジタルトランスフォーメーション実施にあたっての障壁は、完了している企業では「デジタルトランスフォーメーション戦略に沿う組織化と新しい業務プロセスの実行」「テクノロジに関するスキル・知識の欠如」であり、道半ば企業では「デジタルトランスフォーメーションのビジョンと戦略」「データマネジメント」となっています。

電通デジタル委託 Forrester Consulting社 ソートリーダシップ報告書2017年8月「日本におけるデジタルトランスフォーメーションおよびデジタルマーケティングに関する実態調査:2017年度」

電通デジタル委託 Forrester Consulting社 ソートリーダシップ報告書2017年8月「日本におけるデジタルトランスフォーメーションおよびデジタルマーケティングに関する実態調査:2017年度」

 これらの結果から、「既存ITの向上」「レベニューアップ」といった具体的なゴールがある企業の場合は、責任の所在が明確で、的確な部署がけん引するため、課題はあるものの結果も見えやすいことがわかります。一方で「ビジネスモデル変革」や「企業のアジャイル化」など、全社的な体質改善を行おうとすると、関係部署も多岐に渡り、課題も複雑化するため、完了まで時間を要すると考えられます。

 では、そういった部門間横断での複雑な課題を抱える企業がデジタルトランスフォーメーションを実施するために重要なことは何でしょうか。

 デジタルトランスフォーメーションの戦略を明確にするためには最も重要なことの一つは、今一度顧客視点に立ちかえって現状を見直すことです。デジタルトランスフォーメーションは企業側の効果効率向上のための実施となることも多く、さまざまな部署がそれぞれの利便性を追求する、ということにもなりえます。しかし、全社統一で顧客視点を徹底する、お客さまがどういった方で、何を望んでいて、そのお客さまに対して何をどのように提供するのか、そのために何ができるのかを明確にする、企業の提供価値の根幹を見極めることで、自ずと何をすべきか、社内をどう改善する必要があるのかが見えていきます。

 徹底的なマーケティングリサーチを行い、深いお客さま理解に努めている企業は少なくありませんが、その理解の範囲の拡大や、その理解を元に企業の視点をお客さま中心に変えて行く、エクスペリエンスデザインを行うことが非常に重要です。

 「エクスペリエンスデザイン」と言う言葉が昨今脚光を浴びていますが、その考え方は全く新しいものではありません。「お客さまのことを徹底的に理解し、解決したいことに対して適切な対応を行うことで価値を作る」という、これまでも多くの企業がやってきたであろう考え方です。それを今、どのように行うかが大事になってきます。

 エクスペリエンスデザインを行うにあたって、重要な要素があります。

  • 明確なお客さまイメージ(ペルソナ)が明文化できているか
  • そのお客さまの、行動・ニーズ・気持ちが理解できているか
  • お客さまの行動・ニーズ・気持ちから、自社の抱える課題を明確に把握できているか
  • その課題を解決する現実的なプランを検討することができるか

ということです。そして、それが異なるさまざまな部署間で全社的に共有できているか、ということが重要で、これらいずれかが欠けていると全社的な明確な戦略を立てることが難しくなります。

お客さまイメージ(ペルソナ)の明文化

 エクスペリエンスデザインを行うにあたってのファーストステップであり、もっとも重要なこと、それは「お客さまをきちんと理解する」ということです。自社の製品やサービスに関することだけではなく、お客さまの普段の生活の中での意識や気持ち、行動を明らかにすることが現状打破のためには重要です。より具体的な人格を設定し、全社的に「同じ人」をイメージしながら検討を進めることで、部署単位でのばらつきをなくし、強固な戦略策定を行うことができるようになります。

 お客さまを理解するためにできることはたくさんあります。これまでにも、マーケティングリサーチによる定量的な理解はもちろん、インタビューや行動観察といった定性的な理解を行っている企業は多いでしょう。

 それらはもちろん効果的ですが、最初に仮説を立てる段階ではいきなりリサーチに入るのではなく、周辺の人へじっくりヒアリングしてみる、というのも効果的です。自社のサービスや商品のユーザーを身の回りで探し、その人にざっくばらんなヒアリングを行います。身近な人だからこそ確証のない質問をぶつけることもでき、率直な意見を聞くことで、イメージをつかむことができます。

 また、お客さまの行動の全体像をデータから理解する、ということも効果的です。電通と電通デジタルは、従来のオーディエンスデータに加え、スマートフォン由来のオーディエンスデータやテレビの実視聴ログデータ、購買データなどを人(People)基点でつないだ統合マーケティングプラットフォーム「People Driven DMP」を保有していますが、そういった行動データから、お客さまのことをより深く理解する、ということも効果的です。

お客さまの行動・気持ちの理解

 お客さまの行動や気持ちを理解するためには、カスタマージャーニーを可視化することが重要です。昨今、カスタマージャーニーという言葉がキャッチーなため取り組まれている企業も多いですが、商品購入やサービス利用に至るまでの「コミュニケーションフロー」にとどまっていることも少なくありません。お客さまの行動やその際の接点だけではなく、その行動をとるにあたっての意識や気持ちをつまびらかにし、なぜそういった行動をとるのか、その行動が企業の理想とする動きではない場合、何が問題なのかを明らかにすることで、企業の抱える課題が見えてきます。

カスタマージャーニーからの課題抽出

 カスタマージャーニーとは、課題抽出のための手段です。お客さまの気持ちの中での、ゲインポイント(気持ちが前向きになるポイント)とペインポイント(気持ちが下がるポイント)を把握し、それらのポイントを改善・より良くするためには何が足りないのか、を洗い出します。多くの場合、カスタマージャーニーを通して数多くの問題点が抽出されますが、その問題点ひとつひとつをつぶすよりも、その根幹にある課題を抽出し、場合によっては集中と選択を行いながら、行うべきアクションを検討します。

具体的なプランの検討

 カスタマージャーニーマップから抽出された課題を解決するための施策を検討する際、重要なのは机上の空論で終わらない「現実的な」プランとそれを実行するにあたって超えるべき障壁、大まかな予算感、実施する体制まで含め「サービスブループリント」を具体的に検討することです。 導き出された施策の中には、予算も時間もあまりかからずすぐにでも実行できる施策から、大きな予算と中長期的な準備が必要な施策まで幅広く出てくるでしょう。それらの優先順位を見極め、どの施策をどのタイミングで実施するかの選択も重要です。さまざまな課題のうち、デジタルで解決できることは何か、デジタルトランスフォーメーションを行うことでお客さまへの提供価値が最大化できることを見極めることで、デジタルトランスフォーメーションの指針が見えてきます。

全社的な共有

 ペルソナ・カスタマージャーニー、そこから導き出される課題は、特定部署だけが理解するのではなく、全社で共有されることが重要です。各部署がバラバラの目標に向かってしまっては、全社的な体質改善は望めません。同じ目標に向かって商品・サービスを開発する、コミュニケーションを行う、販売を行う、アフターサービスを行う、それらを効率的に行うためのシステム開発を行うなど、ブレないことが大事です。

 私たちは、改めて徹底的な顧客視点に立ち返り、最も効果的なデジタルトランスフォーメーションの指針を探すお手伝いをさせていただきます。

◇著者プロフィール
石井香織
電通デジタル
デジタルトランスフォーメーション部門
シニアコンサルタント
電通にて、国内外の多様な企業から官公庁まで幅広い業界でのストラテジックプランニング業務を経て2016年の立ち上げと同時に電通デジタルへ。顧客体験価値の向上をテーマに、エクスペリエンスデザインのプロジェクトに従事。コミュニケーション戦略立案から、ブランド戦略立案、新規事業・新商品開発支援などを手掛ける。


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