「Nike SNKRS(ナイキ スニーカーズ)」は、Nikeの人気スニーカーを入手できるオンラインマーケットであり、スニーカー関連のコンテンツが充実した情報源であり、スニーカー愛好家のコミュニティーでもある異色のECサイトだ。「Nike SNKRS アプリ」はそのアプリ版。 iOSとAndroidの両方に対応し、現在では 21カ国15言語で展開している。日本語版はナイキジャパンが2018年3月20日にリリース。22日目にはiPhoneのダウンロード数がショッピングカテゴリーで1位、総合でも4位にランクインするなど上々の滑り出しを見せている。
よく知られているように、スニーカーのコミュニティーは熱い。新作スニーカーを購入する権利を得るため、ショップ前に大勢の人が行列する風景は(時に事件性を帯びたニュースとして)メディアで取り上げられることもある。
SNKRS アプリは、スニーカーを愛する人々が行列に並ぶことなく欲しいスニーカーを買える(もしくは抽選販売に申し込める)ように、さらにはスマートフォンならではの特性を生かしたさまざまな機能を追加し、ゲーム感覚で楽しめるものとして作られた。
スニーカーを買うまでのストーリーはスニーカーと同じくらい重要
同アプリのグローバルジェネラルマネージャーであり、Nikeニューヨーク・デジタル・スタジオ「S23NYC」ジェネラルマネージャーを務めるのが、ロン・ファリス氏だ。ファリス氏はNike入社以前、新興テック企業Virgin Megaの創立者兼CEOを務め、それ以前はVirgin Mobile USAのブランドマーケティングでマーケティングの総括責任者を担当していた。ミレニアル世代向けのマーケティングの専門家として知られるファリス氏は音楽やゲームなどエンターテインメント業界とのつながりも深く、2013年にはマーケティングの卓越性と効果に対して与えられるEffie Awardsで銀賞を受賞している。
SNKRS アプリ日本版リリースに先立って開催された記者向けの説明会で、ファリス氏はSNKRS アプリの特徴およびスニーカーという商材におけるコミュニティーの重要性について語った。
同じ趣味趣向を持つ人々が形成するコミュニティーは、それが何であれ、熱量が高い。その中でも、スニーカーコミュニティーは熱狂的なファンが集うことでよく知られている。誰よりも早く新しいスニーカー入手し、見せびらかし、手に入れたスニーカーについてありったけの知識を語る。知っている人から知らない人に情報が伝わることでコミュニティーが活性化するという世界だ。
「コミュニティーを作る上で重要な要素は3つある。素晴らしいプロダクトとストーリー、そしてデジタルにおける体験だ。デジタル体験を通じて、消費者とブランドの間にさまざまなストーリーが生まれる。『どうやってスニーカーと出合ったか』というストーリーは、スニーカーと同じくらい重要になる」とファリス氏は語る。
SNKRS アプリは、ストリートから生まれたスニーカーカルチャーを踏まえ、コミュニティーからストーリーが伝わる仕組みを提供する。そのため、スニーカー愛好家が気に入るようなユニークなやり方を模索した。買い物というよりもゲームをしているような体験ができる、普通のショッピングアプリと全く違うものを作り上げた。
動画ありARあり、最先端のテクノロジーでECがエンターテインメントに
例えば米国版で実施したある企画では、スマートフォンに映し出された「Nike Air Foamposite One」のフォトライブラリーを指でこすると色が塗れるようになり、塗り終わるとNBA選手のシークレットビデオが流れるという機能を搭載した。この企画の実施に際してNikeは事前に何も告知活動を行わなかったが、偶然これを見つけたユーザーがすぐに自分のSNSアカウントで伝えた。コミュニティーの中で情報は瞬く間に拡散し、わずか8分間で8万5000人に伝わったという。
店舗の行列を解消し、さらにコミュニティーの活性化に寄与するNikeらしい機能が「SNKRS Stash」だ。これはAR(各超現実)機能を使ったゲームコンテンツで、ユーザーは指定された場所でスマートフォンのカメラを目の前に向け、現実とデジタル空間の間に隠れたスニーカーを探す。いわばスニーカー版の「Pokemon GO」のようなものといえる。これを使って皆でスニーカーを探し、首尾よく見つけることができた人だけが購入する権利を得られる。
同様にARを使った機能に「SNKRS CAM」がある。こちらは、印刷物やポスターに埋め込まれたARマーカーをスマートフォンのカメラで読み取るとスニーカーがポップアップする仕掛けになっており、スマトフォンの向きを変えることでさまざまな角度からスニーカーを眺めることができる。もちろん、気に入ったらタップ1つで購入可能だ。屋外広告やポスターをそのまま買う場所に変えることが可能で、オフラインのビジネスとシナジーを生む画期的な機能といえるだろう。米国ではレストランとのコラボレーションで、メニューの中にスニーカーを隠すといった取り組みも実現している。
コミュニティー形成の3段階
ファリス氏は、デジタル体験を介したコミュニティー形成の在り方を3つの段階に分けて考えている。
FacebookやTwitterが普及した第1段階(Community 1.0)では、フォロワーの多い人がインフルエンサーであった。しかし、たとえ1万人のフォロワーがいても、それはリアルなつながりではない。そこで第2段階(Community 2.0)では、友達同士の緊密な関係の中で、SnapChatのようなツールを介したコミュニケーションが重視されるようになった。そして、ファリス氏が「トライバル/カルトモデル」と呼ぶ第3段階(Community 3.0)が現在だ。
ここではインフルエンサーがハードコアなユーザーに語り掛け、ハードコアなユーザーがカジュアルなユーザーに語り掛ける形で情報が伝わる。インフルエンサーは店舗のマネキン(店員)のような存在であり、SNKRS アプリにもそういう機能を持たせたかったという。
「これはまだ始まりにすぎない。コミュニティーを作りながらアクセスを広げたい。次にコミュニティーが自己表現する場所を提供したい」とファリス氏は語る。事業会社がコミュニティー作りにここまで手を掛けるのは、なかなかできることではない。一体なぜそこまでNikeはコミュニティーにこだわるのか。ファリス氏に聞いた。
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