総務省で「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会(第6回)」が開催された。同検討会は今回が最終回で、総務省から提出された「報告書(案)」は今回の第6回の意見交換の内容を反映し、最終的な「報告書」として公開される予定。
同検討会は2017年12月25日に第1回を開催、第4回までは通信事業者や関連事業者にヒアリングやアンケート調査を実施して意見を集めた。第5回では意見をまとめた論点(案)が事務方の総務省から提示され、有識者の構成員と論点整理を行っていた。
最終回で提示された報告書案は、ヒアリングや調査で明らかになった事実を踏まえた上で、検討会として3つの柱を提示し、関連する法律の変更、関連するガイドラインの見直し、関連する対策を事業者に要請するなど、一部は実行を求める内容になった。
今回の検討会は、当初からモバイル業界の多くの問題点について触れられ、論点の柱がわかりにくい側面があった。検討会を牽引した総務大臣政務官の小林史明氏は、そうした広範に渡る議論も狙いのひとつであったとする。
小林政務官は、第6回を終えた締めくくりの挨拶で、「かなり小さなものから大きなものまで並んでいる。私はこれが重要だと思っている。この会議を立ち上げるにあたって、すべての問題を出すと言ってきた。事実関係があるものから無いものまで、一旦全部挙げていただき、我々でファクトをチェックして整理をしよう、そして整理できたものがこうして並んだ。今まで、言ったつもり、やったつもりで終わっていたものを、今度はキチっと詰めて、小さなものから大きなものまで全部やりきる。整理して前に進められるように頑張っていきたい」と述べ、現状の課題を網羅し、それぞれに対応策を実行していくことが当初からの目的であったとしている。
報告書(案)の要点
第6回の検討会で示された「報告書(案)」はPDF形式で公開されているほか、最終的な「報告書」も一般に公開され、誰でも確認できるようになる見込み。
報告書案では各論点について、「現状」「意見」「考え方」という項目で解説され、「現状」や「意見」にはヒアリングやアンケート調査に基づく事実関係も多く盛り込まれた。一方の「考え方」には、関連する事業者や総務省がとるべき対応策、変更点、要望といった、検討会での結論が記されている。
「報告書(案)」が示している3つの柱は、(1)ネットワーク提供条件の同等性確保、(2)中古端末の国内流通促進及び(3)利用者の自由なサービス・端末選択の促進、の3点。
(1)では報告された事実をもとにMVNOの競争環境が議論され、会計面で子会社への資金援助が調査されることになった。(2)ではMNOによる中古端末の流通の阻害があれば業務改善命令の対象になることが示されている。(3)では期間拘束や違約金についてさらなる改善をMNOに求め、構成員からは別の場で議論する必要性も提案された。
以下ではユーザーに影響が大きいと考えれるものを抜粋する。
ネットワーク提供条件の同等性確保
料金・品質(速度)に関する同等性
ここではMNOのサブブランド(ワイモバイル)や、MNOグループのMVNO(UQ mobile)を主な対象として、MNOから優遇されているのではないか? という問題提起と議論が行われた。
報告書案では、速度はさまざまな条件で変化するとした上で、競争環境の整備の観点から「必要な検証を行い、対応していく必要がある」とした。品質や速度で直接的に重要になる帯域幅の確保については、各社からの報告をもとに、速度に優れるMVNOは相応の帯域幅を確保しているとし、相当のコストがかかっていると指摘している。
ただし、こうした帯域幅の確保に必要な資金が子会社に対して過度に援助されているのではないか、つまり、KDDIがUQに対して資金面で援助し、その資金で大きな帯域幅を確保しているのではないか、という懸念については、「不当な差別的取扱いや不当な運営に当たるものがないか、MNO3グループについて検証を行う」とし、「会計の専門家を含む検討体制を設けることが必要」「現行制度のもとで可能なところから早急に開始すべき」と、会計面で調査する方針が示された。
なお、この親会社から子会社への事実上の金銭的援助について、報告書案では、構成員の北氏が話したという「ミルク補給」という表現が用いられたが、ほかの構成員から「イメージしやすいかもしれないが、品のいい言葉ではない」(大谷氏)、「俗に過ぎる表現かもしれない」(新美座長)と指摘され、最終的な報告書では表現が差し替えられる見込みになった。
接続料算定の適正性
MVNOがMNOのネットワークを利用する際に支払う接続料については、MVNOの料金体系に大きく影響することから、適正化について過去にもガイドラインが整備されてきた。しかし検討会では、MVNOからは、接続料が高い、算定根拠の開示が不十分、確定が遅く予見性の観点から事業に不利といった意見が相次いだ。一方のMNOからは、接続料(データ)は低廉化傾向であること、当年度精算には一定の基準が必要、当年度精算の義務化は不要といった意見が挙がった。
報告書案では、「算定根拠について透明性が確保されることが重要」とした上で、過去に整備された制度を「必要に応じた見直しを行っていくことが重要」としている。
接続料の当年度精算については、「実施基準の明確化が重要」「これに向けた検討を、総務省において行うことが必要」と示し、一歩前進した形。
MNPの円滑化
MNP(携帯電話番号ポータビリティ)については、現状として、電話や店頭でなければ転出手続きができないケースが一部のキャリアにあると指摘された。事実として、KDDIとソフトバンクは、PCとスマートフォンからはWebサイトで転出手続きができないことが示された(フィーチャーフォンは可能)。
この点については、検討会の第5回でも、構成員から「MNPの手続きがWebからできないというのは、IT企業として恥ずかしい。感覚がずれている。こんな文章があること自体がおかしい」と厳しく批判する声があがっていた。
報告書案では、WebサイトによるMNP手続きを可能とするよう、MNPのガイドラインの見直しを行う方針。また、「強引な引き止め」についても実態把握を総務省で実施し、「適正化を事業者に働きかけることが必要」とした。
音声卸料金の低廉化等
MVNOに卸提供される音声の料金は、MVNOから卸料金の引き下げ余地があるのではないか、定額プランが可能な卸料金を希望するといった意見が挙がった。
報告書案では、「検討課題を抽出してその対応可能性について検討するよう総務省からMNOに要請」と、やや慎重な方針を示す一方、「協議が調わないときは、電気通信事業法第39条の規定に基づく総務大臣の裁定等の紛争処理手続を利用することが可能」という考えを明らかにしている。
テザリングの利用
MVNOでは、KDDIまたはソフトバンクのネットワークを利用する場合、テザリングが利用できない場合があるとして、アンケート調査の結果でも改善を求める声が挙がっていた。
ソフトバンクは対策を実施し、iPhoneとiPadについては4月9日から、MVNO回線でもテザリングが利用できるようになった。Androidスマートフォンについては、2018年の春夏モデル以降にソフトバンクが販売する端末は、テザリングが可能になる。
KDDIからは、実現にむけた対応を行っていると説明されたが、報告書案では「早期実現を図る」とした上で、「テザリングの実現時期をMVNOに提示する必要がある。これについて、総務省においてKDDIに要請することが必要」としている。
中古端末の国内流通促進
中古端末の国内流通を促進する議論は、現状では供給量が少ないことや、関連してSIMロック解除の指針がすでに整備されていることが指摘された。ヒアリングやアンケート調査では、MVNO側から、MNOが下取りした端末の海外流出を抑制し、国内再流通を促進すべきと意見があがった。一方、MNOの3社は一様に「中古端末の国内流通を制限していない」と回答していた。
報告書案では、「MNOによって端末の流通が不当に制限されないことを確保するため、下取り端末の流通・販売を行う者に対してMNOが当該下取り端末の国内市場での販売を制限することは、業務改善命令の対象となることを明確化するガイドラインを策定する必要がある」とした。
また中古端末のSIMロック解除については、MNOがこれに応じるよう「SIMロック解除ガイドラインを改正することが必要」としている。
利用者の自由なサービス・端末選択の促進
この議論は、MVNOの競争環境の確保と並んで、本検討会で次第に大きく取り上げられた論点。
直接的な背景は、通信サービスの「2年契約」に加えて、高額な端末を主な対象として48回払いの割賦で販売し、後半2年の残債を免除するといった販売形態が組み合わさり、拘束期間や違約金の条件が一気に複雑化したことにある。
なお、本検討会でも決定的な結論は導かれず、別の機会でさらに議論を継続していくことが必要とされた。4月には本検討会とは別に公正取引委員会が意見交換会を開始するなど、モバイル業界で今後の大きな課題になることが予想される。
利用者契約における利用期間拘束について
この議論では、2年契約と、違約金なしに解約できる期間、自動更新、高額な違約金の設定などが現状として示されている。
また、ドコモが2年契約満了後に期間拘束の無いプランに移行できる方策を用意したのに対し、KDDIとソフトバンクは同様の方策でも月額で300円高く設定し、面従腹背ともとれる状態になっていることが指摘された。
ヒアリングやMVNOへのアンケート調査でも、期間拘束と自動更新は移転の機会を阻害しているといった意見があがり、MNOでは自動更新を「更新を忘れて料金が高くなることを防ぐため」と説明した。
報告書案では、現在の利用期間拘束を「硬直的」とし、ユーザーの意に沿わないスイッチングコストの上昇要因の緩和または解消に向けて、「総務省において対応を行うことが必要」とした。
具体的には、「総務省から各MNOに対して、2年契約満了時点またはそれまでに、違約金と25カ月目の通信料金のいずれも支払わずに解約することができるよう措置を講ずることを求めることが必要」としている。
構成員の北俊一氏は、48回払いの割賦契約で後半2年の残債免除という施策の問題点について、「もう少し踏み込んで(報告書案に)書けないかと意見してきた。今(問題が)起こっている現象ではないかもしれないが、今後懸念される。しっかりと(報告書案にあるように)モニターしていただきたい」と注文を付けた。
同氏はまた、「残債免除に限らず、スイッチングコストが上昇する販売の仕方、あるいはプランの、どこまでが良くてどこまでが良くないのか、今後もいろんなものが出てくる可能性がある。光(回線)、電気などいろいろなサービスが付帯するようになり、それぞれ拘束期間がずれていることもある。ユーザーは完全に縛られている。ここについては、ほかの場で、と申し上げたい」と、議論の継続を要望した。
「モバイルサービスの提供条件・端末に関する指針」について
この論点は、行き過ぎた端末購入補助(キャッシュバック)の適正化について、再度点検する必要があるというもの。高額なキャッシュバックが販売の現場では無くなっていないことから、問題点が改めて議論された。
報告書案では「MNOから販売店に対して端末代金の販売価格やその値引き額を実質的に指示することは、業務改善命令の対象になることを明確化するガイドラインを策定する」と記された。
さらに公正取引委員会との連携を図っていくことについても触れ、「総務省が販売店による独占禁止法抵触の可能性がある事案を認知した場合に公正取引委員会に情報提供を行うことについて検討する」としたほか、「総務省によるフォローアップ体制への公正取引委員会の参加を求め、総務省は公正取引委員会の実態調査に協力する」という方針を明らかにしている。
構成員の北俊一氏からは、「公正取引委員会との連携は、けっこう“しんどい”と想定される。総務省は電気通信事業法でキャリアを、公正取引委員会は独占禁止法などで販売代理店を律するなど、連携で、それぞれの役割を果たしてほしい」と、総務省にエールを贈る形のコメントも聞かれた。
北氏はまた、「なぜ端末の安売りを止めているのか。それは、ユーザー間の公平性の是正」と改めて示し、「体力のないMVNOや新規参入のMNOでも、公正なユーザーの獲得競争をできるようにするもの。補助金を削減しただけでは、単に端末の販売価格が高くなっただけということになる。ユーザーに(削減した補助金が)還元されているか、しっかりとチェックすることが総務省の役割。そうでないと、私を含めて、余計なことをしているなという話になる」と語り、端末購入補助の削減によりあまった資金は、プランやサービスなどでユーザーに還元されるべきという原点の議論を指摘している。
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