「われわれは、自分たちの責任について十分に把握していなかった。これは大きな過ちだ。私の過ちだった」と米Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは4月4日(現地時間)に開いた電話会見で語りました。
この電話会見は、ケンブリッジ大学の教授が診断系アプリで収集したユーザーの個人情報を、2016年の米大統領選でトランプ陣営が雇った調査会社のCambridge Analytica(CA)に不正に売却した問題について、メディアの記者からの質問を受け付けるものでした。
こんな電話会見を開いたのは同社としては初めてです。Facebookは昔から、ユーザーデータの扱いについて問題視されては少し修正する、ということを繰り返してきました(例えば2008年、2012年、2013年、2014年の記事)が、今回の問題は桁違いなので釈明の場を設けたようです。
意地悪な見方をすれば、4月10日(現地時間)に行われる上院司法委員会の公聴会の予行演習も兼ねていたんじゃないかとも思います。この公聴会(Hearing)は、ザッカーバーグCEOが初めて出席する国の公聴会です。当初は米Googleのスンダー・ピチャイCEO、米Twitterのジャック・ドーシーCEOも呼ばれていましたが、4日になって委員会が「ザッカーバーグ氏だけになりました」と発表しました。
公聴会、厳しいです。2016年の米大統領選へのロシア介入疑惑で3社の弁護士が招請された公聴会の録画を見ましたが、複数の議員に高いところから見下されながら宣誓し、次々と質問され続けます。うっかりしたことを言わないように注意しながらの答弁は、かなりの精神力が必要そうです。
4月4日のメディア記者向け電話会見は約1時間におよび、22の質問が投げられました。普段からIT企業の動向を追っている気鋭の記者ぞろいなので、上院議員より鋭い質問もあったと思います。
Facebookが公開したトランスクリプト(録音の書き起こし)を読むと、お見事な回答です。これなら公聴会も切り抜けられそうだと感じました。
このトランスクリプトから筆者が読み取ったのは以下のようなことです(この「はみ出しITコラム」は筆者の主観が入ります)。
- 個人情報が不正利用されたのは(規約を破った教授が悪いけど)不正利用できるような構造にしていたわれわれの責任だった。反省している。
- だから、不正利用できないようにいろいろ改善していく。
- でも、敵も手口を更新していく、これは“軍拡競争”のようなものなので、完璧な対策というものはない。
- (じゃあそもそも個人情報を集めるのやめれば? という質問に)個人情報の収集は、人々がよりつながるようにするというFacebookのミッションのためのものだから、やめることはない。
- (何度も言っているように)ユーザーはどんな情報を集められているか承知の上でFacebookを使っているのだから、嫌なら設定を変えればいい。ちゃんと変えられるようにしてあるのだから。
- これは、Facebookにとっての利益追求とユーザー保護のトレードオフではなく、ユーザーにとっての便利なサービス享受(関連性の高い情報が表示される)と個人情報提供のトレードオフという話だ。
- (今回の責任をとってCEOを辞任するつもりはないのかという質問に)失敗から学んで改善するのが大事。自分以上にこのサービスを改善していける人はいない。
また、今回のスキャンダルでユーザーの退会や広告の引き上げが激増したかという質問に対しては、今のところないと答えました。
同社は来週から、ユーザーが自分のプライバシーについてもう少し理解できるようにUI(ユーザーインタフェース)やポリシーを変えていくと発表しましたが、最終的にはユーザーがそれを理解しないと現状は変わりません。
実際、ザッカーバーグ氏が言うように、Facebookではある程度プライバシーを守れます。ただし、わざとかと思うほどプライバシーを保護する設定にするのは大変です。Facebookアプリをインストールするプロセスで端末内の連絡先情報を提供したことを「知らなかった!」と驚くユーザーが後を絶ちません。
そういえば、Facebookから何度も「アカウント乗っ取り対策のために電話番号を入力しよう」といわれても入力しなくてよかったです。Facebookは先日、電話番号とメールアドレスでのユーザー検索機能を無効にした理由を「悪い人(bad actors)がこの機能を悪用してユーザー情報を集めていたことが分かったから」とさり気なく説明しました。
ほとんどのユーザーは、実際に自分が被害に遭わない限り、自分の個人情報がどう扱われているかについて無関心なのではないでしょうか。Facebookのサービスは、そういうユーザーの無関心の上に成り立っているように見えます。
当局の規制が入れば変わるかもしれませんが、そうなるとFacebookが存続の危機を迎えるかもしれません。
ザッカーバーグCEOの公聴会デビューは日本時間の4月11日午前3時15分からライブ配信される予定です。
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