54社のグループ企業の中核を担う京王電鉄。横断的セキュリティを実現するために立ち上げたCSIRTで、どのような取り組みをしているのか――。ITmedia エンタープライズが2017年11月に開催したセキュリティセミナーで、同社の経営統括本部 IT管理部長を務める虻川勝彦氏が「京王SIRT」の取り組みについて講演を行った。
「ゼロ地点」から始まった横断的取り組み――京王電鉄
2009年から2010年にかけて猛威を振るったマルウェア「Gumblar(ガンブラー)」を覚えている人は多いだろう。京王電鉄も当時、外部業者に委託して制作、運用していたキャンペーンサイトが改ざんされたという。
虻川氏は、当時を「外部公開Webページの一括管理をしていない状態で、グループ各社や各部署が個別に作成、管理していた」と振り返った。要するに、各社が個別に構築した公開サイトを把握しきれていない状況下でのGumblar感染。これが契機となって、「ゼロから」の「横断的なセキュリティ対策」に着手したという。
同社では、外部公開Webページを全て把握するため、グループホームページ分科会を設置し、外部の制作側も巻き込んで管理状況をチェックするための体制を整えた。また、全Webページに改ざんチェックツールを導入。外部委託先に対してはチェックリストを作成して問題点を洗い出し、改善の依頼や委託先の切り替えを実践した。
54社のグループ企業の中核を担う同社では、グループ企業の統制も求められる。虻川氏は、「“ガバナンスは押し付け”と感じて反発する人もいる。そこで、ガバナンスという表現ではなく、メリットや“お得感”を出して、共感して利用してもらうというアプローチをとった」と、独自の取り組みを紹介した。
さまざまなセキュリティ施策を実施するに当たり、「グループ各社の負担を軽減するため、ベンダーとの価格交渉やボリュームディスカウントの導入はもちろん、“工数削減のために自分たちが汗をかく”など、コスト削減に奔走。必要なものを安価に調達し、きちんと使ってもらうことに取り組んだ」と説明した。
京王SIRT・京王セキュリティポータルで横断的セキュリティを強化
同社では、横断的セキュリティに対する取り組みをより強固にするため、2015年7月16日に「京王SIRT」を設立。2017年4月にはグループ会社の連携ツールとして「京王セキュリティポータル」を稼働した他、クラウドの積極的導入を進めながら、Webページの構築ガイドの作成に着手した。
京王SIRTでは、SOC(Security Operation Center)の体制強化が課題だったという。「どうやってインシデントの検出精度を高めるか、セキュリティ監視の運用負荷を軽減するか、体制を維持し続けるかという課題に対し、やるべき事に注力するために、『自分たちで必要なレベルまでできないことはやらない』と決めて、外部事業者が提供するMSS(マネージドセキュリティサービス)を活用。ファイアウォールやプロキシ、IPS/IDS、エンドポイントのログを監視、分析してもらっている」(虻川氏)。インシデントが起こった場合の対応については、セキュリティポータルを介してグループ各社で情報共有しつつ進めるという運用になっている。
クラウドについては、当時、同氏が在席していた京王バスが2011年から順次導入を進めている。虻川氏は、「システムが停止しても業務への影響が低いシステムから開始した『検証期』から、多くの人が触れてクラウドは使えるという認識を広める『導入期』を経て、基幹システムに導入する『活用期』へ進んだ」と流れを説明。2016年3月には全国のバス会社や一般ユーザーに使ってもらっている高速バス予約システム「ハイウェイバスドットコム」を「AWS」(Amazon Web Services)に切り替えたという。
京王電鉄でも、2015年末からクラウド活用を始めている。セキュリティの強化やBCP対策の観点からもクラウドを推進。「迅速かつローコストなDR(ディザスターリカバリ)環境の構築に向けて、クラウド活用へ舵を切っている」と述べた。
最後に虻川氏は、経営層や上司に「セキュリティの必要性」を説明する際のポイントを紹介した。
「経営層の中には、『セキュリティは金食い虫』『セキュリティ対策は金を生まないので積極的にやりたくない』と考えている人も少なからずいると思う。こうした相手には、理解度や意識、会社の状況に合わせて分かりやすく表現を変えるのが大事。経営層はさまざまな部門の話を聞くため忙しく、興味のないことは記憶に残りにくい。以前に説明したことでも覚えていないことを前提に、聞き手の立場に立って説明すれば通じることも多い」と強調した。そして最後に来場者に向けて、「あまり考え過ぎて動けなくなるより、できるところから始めよう」とアドバイスを送り、講演を締めくくった。
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