3月2日に国内でも販売が始まったモーションキャプチャ機器「Perception Neuron 2.0」(ニュース記事)。体に装着することで、全身や指の動きを取得し、CGキャラクターに反映できるという代物で、ゲームのキャラクター制作だけでなく、最近ではバーチャルYouTuberのようなリアルタイムでキャラクターを動かす用途でも大いに注目を集めている存在だ。
新型では、センサー類は変わっていないが、装着感が向上してより正確な動きのデータが取りやすくなっている。では利用時に性能の向上は実感できるのだろうか。リアルタイムアニメーション作成システム「KiLA」(キラ)を使い、年間相当数のアニメーション収録をこなしているという、おそらく日本一Neuronに詳しいcortさんに使ってもらい、その意見を交えながらレビューした。
モーキャプのハードルを下げた革命的製品
最初にNeuronの特徴を簡単に説明すると、全身のモーションキャプチャを安価に実現したソリューションという位置付けだ。
少し前まで全身のモーキャプは、VICONやOptiTrackなどのカメラに囲まれた空間に専用スーツを着たアクター入り、演技をして収録するというものが多かった。自社で用意するのも数百万円以上と高額で、スタジオを借りるのもコストや時間の制限があるため、気軽に試すのが難しかったわけだ。例えば、本番のために試しでモーションを取りたい、ちょっとした手直しをしたい、出先にシステムを持ち込んで収録したい──といった細かなニーズに応えられていなかった。
そこに登場したのがNeuronだった。加速度/ジャイロ/磁気のセンサーを内蔵した成人男性の親指ほどの小型ユニット「トラッカー」を最大32個用意し、バンドやグローブなどにはめ込んで装着することで、動きを取り込むという仕組みだ。全身だけでなく、体の各部のキャプチャーも可能で、センサーの密度を調節することで、指の動きを細かく取り込むことも実現できる。
大掛かりな収録装置を組まずに、着るだけで済むというメリットも大きい。そして多くのクリエイターに一番響いたのが、トラッカー18個で999ドル、32個で1499ドルという価格の安さだった(現在は32個で1499ドルのみ、国内では20万9800円)。
経緯としては、2014年にクラウドファンディングサービス「Kickstarter」にて出資を募ったのが最初で、目標の25万ドル(2600万円)の2倍以上にあたる57万1908ドル(約6000万円)を1329人から集めるほどの人気だった。クラウドファンディングのハードウェアは出荷までこぎつけられないものも多い中、2015年に実際にリリースされて、実際に使った人からの評判を集め、この度2.0のバージョンアップを迎えたわけだ。
レビューをお願いしたcortさんも紹介しておくと、元はビジュアル系バンドをやりながら建築業界で仕事をしていたが、初音ミクの動画にハマったことでフリーの3DCGソフト「Miku Miku Dance」(MMD)に手を出して、キャラクターアニメをつくるようになったという異色の経歴だ。
ユーザーを巻き込んだ動画のお祭り「MMD杯」の運営を一時期担当したり、「Animelo Summer Live 2012」では、初音ミクのMMDライブにディレクターで参加するなど頭角を表し、2013年には「直球表題ロボットアニメ」にアニメーション監督、「てさぐれ!部活もの」にスーパーバイザーとテレビアニメに関わるようになる。
その後、Neuronを使ったKiLAを開発し、アニメ「魔法少女?なりあ☆がーるず」などで活用してきた。バーチャルYouTuberの制作にも多く携わっており、最近では「虹河ラキ」に使われている。
装着感はかなり向上したが、女性アクターには……
というわけでいきなりレビューに入るが、cortさんが感じたNeuron 2.0の一番いいところはやはり「ずれにくい」点だという。
Neuronでモーションキャプチャする際に注意したいのが、バンドが動くことによるトラッカーのズレだ。体の特定位置にトラッカーがある状態でキャリブレーションした後、アクターが激しく動くなどしてずれてしまうと、もちろんキャプチャーデータも狂ってしまう。
cortさんによれば、旧タイプではそんなズレが起こらないように願いを込めて(!)血が止まる勢いでバンドを締め上げていたが、2.0では「ベルト表面に塗られたシリコンがいい仕事をしてくれて本当にずれない」とのこと。
装着は、旧タイプに慣れていると最初は戸惑うとか。「とび職の職人さんが使うハーネスタイプの安全帯のようだが、安定性はとても向上した」とcortさん。ちなみにモデルは170cm、57kg、天秤座で聖闘士星矢世代の男性。
身につけてわかるのが、表面につけられたシリコンによるバンドの圧倒的な固定感。あまりきつく締め付けるのがはばかられる女性アクターとの仕事では福音となる?(だが女性アクターには後述する別の点で問題が)
頭のセンサーも取り外しが可能。「旧タイプの6ピンケーブルの着脱は、配線の断線や不慣れな人が扱うとピン折れリスクがあったのでこれはありがたい」とcortさん。
実際に、アクターさん2人をNeuron 2.0で収録したところ、センサーが同じこともあって特筆する性能差は感じなかったが、「ナイロンのシャカシャカしたジャージでも太もものホールド性能は高かった。逆に今までのように閉めすぎるとマジックテープが張力で剥がれました(笑)。一番相性がいい服はスキニーのデニムで、安定性が高かったです」とコメントしてくれた。
一方で、デザインが変わったことよって、特に女性アクターでの利用が難しくなった側面もあるとのこと。
リアルタイムアニメやバーチャルYouTuberでは、今のところ女性キャラクターが多数派だ。もちろん「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」こと「ねこます」さんのように、可愛い女の子の見た目で中身は男性というケースもあるが、それは例外で普通は女性に「魂」として入ってもらうはず。cortさんの案件でも女性が圧倒的に多いという。
そこで問題になるのが、肌に触れるベルトだ。特に胸や股といった部位のベルトの位置がセンシティブでなかなか運用しにくいとのこと。「ものづくりの現場でNeuronを使っている身として『どうしてこうなった』……という気持ち」とcortさんは語っていた。
バンドの安定感を向上させるために厚みがアップ。そのせいでベルト通しに入れにくくなってしまい、上腕や太ももは服を着るように装着することになる。ここはぜひ改良してほしい。
最強に困ったところは、アッパーボディーに横方向のベルトを採用して肩からずり落ちる問題が改善されたものの、位置が胸のトップのため、女性アクターが恥ずかしがって装着を嫌がる可能性が高いという点。「芸能人ならマネージャーからNGが出てしまう」とcortさん。
cortさんによれば、もともとKiLAのために旧Neuronを「現場向け」に改造して使っていたとのこと。具体的には、横ベルトを追加したり、トラッカーをつなぐハブが落ちないようにバンドを加えてたりといった工夫だ。
そんなこともあって、cortさん的には新型の導入ではなく、旧型のアッパーボディーの在庫があるうちに予備部品として購入して改造する──という結論を出したとか。なお「旧型の肩ベルトのズレで困っている方は、連絡をもらえれば改善方法を教えますよ」ともcortさんは語っていた。
逆にいえば、装着の点さえ気を付けられれば、改造することなく従来より高い固定性能を得られるということ。なおNeuronの導入に当たって、周囲の磁場の影響を受けやすいため、安定してキャプチャーできる場所を見つけることも重要だということも覚えておいてほしい。
3Dスキャナーで実際にあるものの3D化が楽になったように、モーションキャプチャーの中では安価なNeuronを手元に用意することで、よりプロトタイピングの速度をあげたり、表現の幅を広げられるようになる。国内代理店であるアユートの販売ページでは、2.0の初回出荷分はすでに売り切れており次回入荷を待っている状態だ。バーチャルYouTuberを始めたい方、ゲームを自作したい方などは、体験機会を見つけてぜひ試してほしい。
(TEXT by Minoru Hirota、cort)
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