特集「テクノロジーが変える「資金調達」のカタチ」:
財務部門の大きな役割の1つが資金調達だ。これまでは、金融機関からの融資(デットファイナンス)や、株式によるマーケットからの調達(エクイティファイナンス)が当たり前だったが、近年はクラウドファンディングや仮想通貨を使用した資金調達など、新たな手段が注目されている。
こうした既存の手法に頼らない資金調達を成功させるためには、何が必要なのか。成功企業やサービス提供者に話を聞く。
ICO(新規仮想通貨公開)と呼ばれる新たな資金調達の手段が盛り上がりを見せている。
ICOとは、資金を集めたい企業が「トークン」と呼ばれる独自の仮想通貨を発行し、投資家がそのトークンをビットコインなどで購入することで資金を調達する仕組みだ。トークンの所有者は、発行した企業のサービスを利用できる権利を得られたり、そのトークンの価格が値上がりしたタイミングで売れば利益を得ることができる。
世界でICOによる資金調達額は15年時点では約46億8000万円だったが、17年は約4000億円に達し、急成長している。ICOで資金調達をするメリットとは何か。また、ICOは企業のビジネス、社会をどう変革させようとしているのか。
今年出版されたICOの解説本『世界は逆転する(創藝社)』の著者であり、ICOのコンサルティングなどを行っている松田元さんに話を聞いた。
“資本の論理”から脱却したICO 「利益を上げる必要はない」
――ICOはいつから、どのようにして盛り上がり始めたのでしょうか。
松田: ICOの起源は13〜14年頃と言われています。年間の調達額が50〜100億円に急拡大し、世間に認知されるようになったのは16年末あたりからです。17年には約4000億円の調達が行われ、ベンチャーキャピタル(VC)の調達額を超えました。ICOの歴史は浅いですが、数年で急速に存在感を高めています。
――しかし、ICOを実行する企業はまだまだ多くはありません。特に大手企業は慎重です。なぜでしょうか。
松田: 世界的に仮想通貨に関する法整備はまだ整っていません(中国や韓国などでは既にICOの利用を禁止している)。日本は世界に先駆けて法整備を進めてきましたが、ICOについてはこれからです。今後、法律がどう変わっていくのか分からないリスクがあるので、もう少し様子を見ていたいというのが実情でしょう。
――企業がICOを活用して資金調達をするメリットについて教えてください。
松田: 株式出資では、経営の支配権を手放すリスクがあり、融資には返済のリスクがあります。また前提として、「その会社が利益をどのくらい出せるのか」という評価に縛られます。
しかし、ICOは違います。この“資本の論理”から脱却しています。株式のように配当もなければ、融資のように利息もありませんので、投資側は投資先の事業に利益を求めません。求めているのは、手にした通貨(トークン)がより多くの人に流通すること、つまり通貨の価値が上がることに期待しています。
その通貨でしか使えないサービスが人気になれば、その通貨を欲しい人が増え、価値が高まります。結果として投資家は利益を得ることができます。事業の収益性=通貨の価値向上ではないので、既存の資金調達の概念とは性質が大きく異なるわけです。
つまり、そのサービスを使いたいと思ってもらえるか、いかに共感してもらえるかが投資家からの評価のポイントになるので、企業は「利益を出す」といった資本の論理に縛られず、資金調達ができる。ここがICOの最大の特徴です。
例えば、インターネット百科事典「Wikipedia」(ウィキペディア)のような事業を展開しようとしたとき、既存の資金調達の手法では必ず収益性がネックになります。ICOをすれば、サービスの人気向上とともに、(通貨の価値が上がるので)資金を増やしていくことが可能になります。NPOやNGOなどは、より市場から資金を集めやすくなるでしょうし、営利企業でも社会貢献性の高い事業を展開する際に有効な手段になり得ます。
今は、ビジネスの概念でICOを考えようとするケースが多いですが、実態はビジネスではなく、独自のエコシステムを作って共感者(支援者)を集める「ソーシャルキャピタルプロジェクト」(社会との信頼関係、つながりの構築)。その通貨をどのくらい流通させるかがミッションであり、利益を優先する必要はないのです。
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